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45話 馬車の中の甘い誤解

Auteur: みみっく
last update Dernière mise à jour: 2025-11-05 06:00:15

 豪華な応接室に、再び静寂が満ちていた。ユウヤは、目の前で優雅に紅茶を嗜むシャルに、少しだけ緊張しながら視線を向ける。

「えぇ……求婚にいらしたのではないのですか?」

 シャルは、瞳を潤ませながら、まるで信じられないとでもいうようにユウヤに問いかけた。その声は、震えていて、今にも泣き出してしまいそうだった。

「ちがうわっ!ミリアに殺されるって……」

 ユウヤは、思わず身を乗り出して、声を上げた。冗談めかして言ったが、その言葉には、ミリアの激しい嫉妬を恐れる、本心からの焦りが滲んでいた。

「では……何の用でしょう?」

「あ~えっと、家に泊まりに来ない?」

 ユウヤは、居心地の悪さを誤魔化すように、少しだけどもったいない言葉を口にした。

「はい。是非行きたいですわっ!」

 シャルは、ユウヤの誘いに、瞳をきらきらと輝かせた。その即答の勢いに、ユウヤは思わずたじろいだ。もしかして俺が家を持っていて、そこに泊まりに来ないかと誘っているって勘違いしてる?

「家にって言ってもミリアの屋敷だぞ?」

「はい♪」

 満面の笑みを浮かべるシャルに、ユウヤは拍子抜けした。勘違いでは無さそうで良かったと胸をなでおろす。でも……王様の許可が出るかな……? 大事な一人娘だろうし……。王宮で可愛がられて育てられていそうだしな~と、ユウヤは不安にかられた。

「じゃあ、王様の許可を取ってきてくれる?」

「は~い」

 シャルが嬉しそうに返事をすると、すぐに使用人を呼んだ。ミリアの屋敷に泊まりに行きたいと伝えると、使用人は驚いた顔で一度退出した。しばらく待っていると、足早に戻ってきた。その表情は、どこか驚愕しているようにも見えた。

「許可が出ました……」

 使用人があっさりと許可が下りたことに驚愕していた。通常は、ルートの確認やルートの事前確認や警備体制の確認やら手続きがある。その前に上層部での話し合いに数日かかるのが通常だ。

「即答だな……ホントに大丈夫なの?」

 ユウヤは驚きと同時に、心臓がドクンと音を立てるのを感じた。本当に許可を取ってきたのか? 言って戻ってきただけにも見えるけど……大丈夫なのか? 王女誘拐なんて事になったらヤバイぞ……。この国の王は、ミリアのように溺愛している可能性もある。もし何かあったら、俺の身も危ない。

「それはユウヤ様と、お姉様とご一緒ですからですわ♪」

 シャルは、ユウヤの不安を察したのか、ぱっと顔を輝かせて答えた。ミリアと一緒なら安心だと言わんばかりの満面の笑顔だった。まあ……ミリアの名前を出してるから大丈夫なのか。ユウヤはホッと息をついた。

「そっか~それじゃ出発だな」

「はぁ~い♪」

 シャルと馬車に乗ると、微かに揺れる振動が心地よかった。ユウヤは、いつもの癖でミリアだと思ってシャルの膝の上に頭を乗せてしまった。

「きゃぁ……!」

 突然のことにシャルは可愛らしい悲鳴を上げた。だが、その声は驚きよりも嬉しさの方が勝っているようだった。俺が寝転んでシャルの膝に頭を乗せると、シャルの柔らかい膝の感触が頬に伝わってきた。ふわりと甘い香りが鼻をくすぐり、ユウヤは一瞬で我に返った。慌てて起き上がろうとすると、シャルはユウヤの頭にそっと手を添え、押さえつけた。

「悪い! いつもの癖でミリアだと思って膝枕をしちゃったな」

「問題ありませんわ。秘密にいたしますっ」

「いや……不味いだろ……」

 ユウヤは、シャルの手をそっと握り、体を起こした。そのとき、シャルの手がわずかに震えているのが分かった。ユウヤが起き上がると、シャルは頬を膨らませて残念そうな顔をしていた。好意を持ってくれるのは嬉しいけど……後の事を考えてくれ……と、ユウヤは内心で頭を抱えた。

 膝枕の件を、あっさりと「秘密」にしてしまうシャルに対し、ユウヤは呆れたような、感心したような表情を浮かべた。

「シャルは命知らずだな~」

 思わず、苦笑いが漏れる。

「ユウヤ様が守ってくれますわ」

 シャルは、キラキラとした瞳でユウヤをまっすぐに見つめた。その無垢な信頼に、ユウヤは思わず目を逸らす。

「いや……相手はミリアだぞ?」

「ううぅ……」

 ユウヤがミリアの名を出すと、シャルの顔からさっと血の気が引いた。彼女がミリアの恐ろしさをよく知っているのが、その声と表情からありありと伝わってくる。シャルは、ぷいと顔をそむけ、残念そうに頬を膨らませた。珍しく機嫌が悪そうだ。

「シャル……機嫌を直せよ。可愛い顔が台無しだぞ」

 ユウヤは、少しだけ声のトーンを落とし、優しくそう言った。

 その言葉を聞くと、シャルはすぐに機嫌を直し、弾むような声で返事をした。

「はぁ~い♪」

 そして、隣りに座っていたユウヤに、すりっと頭を預け、寄りかかってきた。その柔らかな感触と、ふわりと香る甘い匂いに、ユウヤの心臓が小さく跳ねる。……まぁこれくらいなら良いか。やっぱり王女様で、良い匂いだな……。ユウヤは、居心地の悪さを感じながらも、その温かさに少しだけ安堵していた。

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